乳がん検診における「異常なし」の意味 ― 検診の精度と中間期乳がんについて― |高槻市高槻駅の乳腺外科・乳がん検診・乳腺の精密検査|よしかわ乳腺クリニック

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乳がん検診における「異常なし」の意味 ― 検診の精度と中間期乳がんについて― 

乳がん検診における「異常なし」の意味 ― 検診の精度と中間期乳がんについて― |高槻市高槻駅の乳腺外科・乳がん検診・乳腺の精密検査|よしかわ乳腺クリニック

2026年8月13日

はじめに

「少し前に乳がん検診を受けて、異常なしと言われたばかりなのですが……」

乳腺外来で乳がんと診断された患者さんから、このようなお話を伺うことがあります。

乳がん検診で「異常なし」という結果を受け取ると、「しばらくは乳がんの心配をしなくてよい」と考える方もおられるかもしれません。

しかし、乳がん検診の「異常なし」は、その後一定期間にわたって乳がんが発症しないことを保証するものではありません。また、検診で用いられる画像検査にはそれぞれ得意な病変と不得意な病変があり、どのような検査にも一定の限界があります。

実際に、乳がん検診で異常を指摘されなかった後、次回の検診までの間に乳がんが発見されることがあり、このような乳がんを「中間期乳がん」と呼びます1)

今回は、乳がん検診の「異常なし」をどのように理解すればよいのか、マンモグラフィの精度、中間期乳がんの特徴、さらに日本で行われた大規模臨床試験J-STARTの結果を交えて解説します。

乳がん検診の「異常なし」は何を意味するのか

検査によって、実際に病気のある方を正しく「陽性」と判定できる割合を「感度」といいます。

例えば、乳がんが100人に存在していて、その検査で90人の乳がんを発見できたとすれば、感度は90%です。逆に考えると、感度90%という非常に優れた検査であっても、10%についてはその検査では発見できないことになります。

したがって、検診で「異常なし」と判定された場合、その意味は、

「今回行った検診において、精密検査を必要とする所見が認められなかった」

と理解するのが適切で、乳がんが無かったという意味ではありません。

マンモグラフィの感度と乳房構成

マンモグラフィの感度は、乳房の中にどれくらい乳腺組織が存在するか、すなわち「乳房構成」によって大きく変化します。

欧州乳房画像学会(EUSOBI)のレビューでは、脂肪性乳房におけるマンモグラフィ検診の感度は86~89%であるのに対し、高濃度の乳房では62~68%まで低下するとされています2)

つまり、マンモグラフィは乳がん検診の中心となる検査ですが、すべての乳がんを発見できる検査ではありません。

なぜ高濃度乳房では乳がんが見つかりにくいのでしょうか

マンモグラフィでは、脂肪は黒く、乳腺組織は白く写ります。

そして乳がんの多くも白く写ります。

そのため、脂肪の多い乳房では、黒い背景の中に白い乳がんが存在するため比較的発見しやすいのですが、乳腺組織の多い乳房では、白い乳腺組織の中に白い乳がんが隠れてしまうことがあります。

この現象を「マスキング」と呼びます。

一方、石灰化を主体とする乳がんなど、マンモグラフィが非常に得意とする病変もあります。

したがって、「マンモグラフィでは乳がんが分からない」ということではありません。マンモグラフィには得意な病変と、発見しにくい病変があるということです。

検診と検診の間に発見される「中間期乳がん」

乳がん検診で異常を指摘されなかった後、次回の定期検診までの間に診断される乳がんを「中間期乳がん」と呼びます。

中間期乳がんには、検診と検診の間に発生し、急速に増大したものだけでなく、マスキングの影響などにより、検診時点ですでに乳がんが存在していても、精密検査を必要とする所見として認識できないものなどが含まれます1)

中間期乳がんは、決してまれな現象ではありません。

世界各国のマンモグラフィ検診についてまとめたレビューでは、主に2年ごとの検診を行っている研究において、中間期乳がんの発生頻度は検診1万件あたり8.4~21.1例と報告されています1)

また、同じく2年ごとの検診を中心とした研究では、検診を受けている女性に発生した乳がん全体のうち、およそ17~30%が中間期乳がんでした1)

また、中間期乳がんは、検診で発見される乳がんとは性質が異なる傾向があります。

中間期乳がんには、検診によって発見される乳がんと比較して、生物学的悪性度の高い乳がんが多く含まれる傾向があることです。これまでの研究では、中間期乳がんは検診発見乳がんと比較して、診断時の腫瘍径が大きく、リンパ節転移を伴うことが多く、組織学的グレード(≒悪性度)が高く、より進行したstageで診断される傾向が一貫して報告されています1)

乳がんは、すべてが同じ速度で大きくなる病気ではありません。比較的ゆっくり増大する乳がんがある一方で、生物学的悪性度が高く、短期間で増大する乳がんもあります。

したがって、

「半年前の検診で異常がなかったから、今触れているしこりも大丈夫だろう」

と判断することはできません。

むしろ、検診後に新しく乳房の変化を自覚した場合には、次回の検診まで待たずに乳腺外科を受診することが重要です。

マンモグラフィに超音波検査を追加すると中間期乳がんはどうなるの

マンモグラフィで発見しにくい乳がんの一部は、乳房超音波検査を併用することで発見できる可能性があります。

この点について、日本から非常に重要な研究が報告されています。

日本人女性を対象として、マンモグラフィ単独による乳がん検診と、マンモグラフィに乳房超音波検査を追加した検診を比較した大規模ランダム化比較試験「J-START」です。

J-STARTでは、40~49歳の日本人女性を対象として、マンモグラフィ単独群と超音波併用群が比較されました3)

2016年にLancet誌に報告された結果では、乳がんを発見する感度は、マンモグラフィ単独群の77.0%に対し、超音波併用群では91.1%でした3)

乳がん発見率もマンモグラフィ単独群の0.32%に対し、超音波併用群では0.50%でした。また、発見された乳がんに占めるstage 0またはIの割合は、マンモグラフィ単独群52.0%に対し、超音波併用群71.3%でした3)

そして今回のテーマに関連して、特に重要なのが中間期乳がんです。

J-STARTでは、中間期乳がんはマンモグラフィ単独群で35例(0.10%)、超音波併用群では18例(0.05%)でした3)

つまり、日本人の40歳代女性を対象としたランダム化比較試験において、マンモグラフィに超音波検査を追加することで乳がん検出感度が向上し、中間期乳がんも少なくなることが示されました3)

J-STARTの長期追跡で明らかになったこと

さらに2026年には、J-STARTの長期追跡結果がLancet誌に報告されました4)

この研究では、Stage II以上の乳がんを「進行乳がん」と定義し、マンモグラフィに超音波を併用した群とマンモグラフィ単独群について長期的な比較が行われました。

追跡期間中央値は、超音波併用群11.4年、マンモグラフィ単独群11.3年でした4)

その結果、超音波併用群では894例の乳がんが診断され、そのうちStage II以上は234例(26%)でした。一方、マンモグラフィ単独群では843例中277例(33%)がStage II以上でした4)

また、Stage II以上の乳がんの累積罹患についても、超音波併用群はマンモグラフィー単独群と比較して、統計学的に有意に低い結果でした4)

これは、超音波検査を追加することによって単に発見される乳がんの数が増えるだけではなく、Stage Ⅱ以上で発見される乳がんを減らせる可能性を示す重要な結果です。

ただし、この研究で示されたのはStage II以上乳がんの減少であり、乳がん死亡率の低下そのものが証明されたわけではありません4)

※注意が必要なのは、本研究における「進行乳がん」は、研究上Stage II以上と定義されたものであるという点です。一般的な乳がんの病期分類において、Stage IIは早期乳がんに含まれます。本研究でいう「進行乳がん」と、一般的に用いられる「進行乳がん」という言葉の意味は必ずしも同じではありません。

マンモグラフィと超音波を両方受ければ十分なの

超音波検査にも不得意な病変があります。乳がんの中には、明らかな腫瘤を形成せず、石灰化を主体としてマンモグラフィで発見されるものがあります。したがって、「マンモグラフィより超音波の方が優れている」というわけではありません。マンモグラフィと超音波検査にはそれぞれ異なる長所があり、互いを補完する関係にあります。

特に高濃度乳房では、マンモグラフィのマスキングを補う検査として乳房超音波検査が期待されています。マンモグラフィ検診で高濃度乳房と判定された方に、乳房超音波検査による任意検診を案内する施設もみられます。

また、2026年7月に開催された厚生労働省の第47回「がん検診のあり方に関する検討会」では、高濃度乳房を含む乳房構成について、検診受診者への通知・情報提供のあり方が検討されました。今後、乳房構成について受診者自身が知る機会が増えていくと考えられます。

一方で、検査を追加することによる不利益も考慮する必要があります。

J-STARTでは、マンモグラフィに超音波を追加することで乳がん検出感度は77.0%から91.1%へ上昇しました3)

一方、超音波併用群の特異度は87.7%で、マンモグラフィ単独群の91.4%より低下しました3)

これは、超音波を追加することで乳がんをより多く発見できる一方、結果的に乳がんではなかった方が精密検査の対象となる機会も増えることを意味します。

乳がん検診では、検査を多く行えばよいというものではなく、年齢や乳房構成、乳がんリスクなどを考慮しながら、検診の利益と不利益のバランスを考えることが大切です。

「検診」と「診療」は目的が異な

ここまで乳がん検診の精度や中間期乳がんについて説明してきましたが、今回最もお伝えしたいのはこの点です。

乳がん検診は、基本的に乳房に症状のない方を対象として行われます。

一方、

・新しく乳房にしこりを触れるようになった

・乳頭から血液の混じった分泌物が出る

・乳房の皮膚にひきつれが出てきた

・乳頭が最近陥没してきた

・乳房の形や皮膚にこれまでとは違う変化がある

といった症状がある場合には、「検診」ではなく「診療」の対象となります。

特に中間期乳がんには、検診発見乳がんと比較して、生物学的悪性度が高く、比較的短期間で増大する乳がんが多く含まれる傾向があります1)

そのため、

「最近検診を受けたばかりだから、次の検診まで様子をみよう」

と考えることはお勧めできません。

さいごに

検診を受けた時期にかかわらず、新しい乳房の症状が出現した場合には、その症状について改めて診察・検査を受ける必要があります。

検診の「異常なし」という結果は、「次回の検診まで乳がんについて考えなくてもよい」という意味ではありません。

乳がんにはさまざまな性質があり、マンモグラフィで発見しやすいものもあれば、乳房構成などの影響によって発見しにくいものもあります。また、中間期乳がんのように、検診と検診の間に臨床的に明らかになってくる乳がんも存在します1)

そのため、

定期的に乳がん検診を受けること

と、

検診と検診の間であっても、新しい乳房の変化があれば医療機関を受診すること

は、別々に考える必要があります。

検診の有効性と限界を正しく理解し、乳房に新しい変化を感じた場合には、過去の検診結果にかかわらず乳腺外科へご相談ください。

参考文献

1) Houssami N, Hunter K. The epidemiology, radiology and biological characteristics of interval breast cancers in population mammography screening. NPJ Breast Cancer. 2017 Apr 13;3:12.

10.1038/s41523-017-0014-x

2) Mann RM, et al. Breast cancer screening in women with extremely dense breasts: recommendations of the European Society of Breast Imaging (EUSOBI). Eur Radiol. 2022;32:4036-4045.

10.1007/s00330-022-08617-6

3) Ohuchi N, et al.; J-START investigator groups. Sensitivity and specificity of mammography and adjunctive ultrasonography to screen for breast cancer in the Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial (J-START): a randomised controlled trial. Lancet. 2016;387(10016):341-348.

10.1016/S0140-6736(15)00774-6

4) Harada-Shoji N, et al.; J-START investigators. Cumulative incidence of advanced breast cancer in women aged 40-49 years in the Japan Strategic Anti-cancer Randomised Trial (J-START) of adjunctive ultrasonography: a prespecified secondary analysis. Lancet. 2026;407(10530):784-793.

10.1016/S0140-6736(25)02319-0

【記事監修者】

よしかわ乳腺クリニック 院長

吉川 勝広(よしかわ かつひろ)

医学博士、日本乳癌学会認定乳腺専門医、日本超音波医学会認定超音波専門医

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