乳房のしこり

乳房のしこりは、女性が乳腺外来を受診されるきっかけとしてもっとも多い症状のひとつです。しこりといっても、その性質は様々で、良性のものから悪性（乳がん）まで、様々な病変が存在します。しこりの大きさや硬さ、動きの有無、痛みの有無によってある程度の判断は可能ですが、自己判断は危険です。特にしこりが硬い・動かない・短期間で大きくなる・乳頭からの出血を伴う場合は、速やかに専門の医療機関を受診することをおすすめします。

乳房に張りや痛みがある

乳房の張りや痛みは、女性ホルモンの変動に乳腺が反応していることが原因であることが多いです。未閉経の方の場合は月経前後に起こりやすいですが、月経と関係のないタイミングで起こったり、閉経後の方にも起こったりすることもあります。また、乳腺症や乳腺炎などの良性の病変によることもあります。ただし、急激に腫れてくる場合や、強い痛みがある場合には、乳がんなどの病気の可能性もあるため、注意が必要です。長引く乳房の張りや痛み、部分的に強い痛みや腫れがある場合は、超音波検査などでしっかり確認することをおすすめします。

皮膚の一部にへこみ、ひきつれがある

乳房の皮膚にへこみやひきつれがみられる場合、しこりが皮膚の下で皮膚を引っ張るような状態になっていることが考えられます。良性の腫瘍でも起こることはありますが、特に乳がんのサインとして現れることが多い症状です。
皮膚の変化は初期には気づきにくいため、鏡の前で両腕を上げたり下げたりしながら乳房の皮膚の様子を確認することが大切です。少しでも異常を感じた際は、早めに乳腺専門外来をご受診ください。

乳頭から分泌物が出る

乳頭からの分泌物は、ホルモンバランスの変化や乳管という母乳の通り道の中にできるいぼによることが多いですが、血性（鮮明な赤色や焦茶色）の場合は乳がんなどの病気が隠れていることもあります。分泌が片側のみ、乳首の一か所から出ている、血液が混じる、などの場合は早めに検査を受けましょう。もし授乳中であっても、出血している場合は自己判断せず一度ご相談ください。

脇の下のしこり、痛みがある

脇の下のしこりや痛みは、リンパ節の腫れや乳腺の病変が原因で起こることがあります。風邪や感染症の際に一時的にリンパ節が腫れる場合もありますし、ワクチン注射を受けると1〜2か月ほど腫れる場合もあります。ですが、しこりが長く続く場合には注意が必要です。

特に乳腺の病気では、乳がんがリンパ節へ転移した際に脇の下のしこりとして現れることもあるため、しこりの性状（硬さ・大きさ・動きの有無）を確認することが大切です。
痛みがあるしこりは、炎症や感染によるリンパ節の腫れのことも多いですが、しこりが硬く、動かない、痛みがない場合には乳がんの可能性もありますので、自己判断せず一度乳腺外科を受診してください。
当院では超音波検査で脇の下のリンパ節の状態を詳しく確認し、必要に応じて細胞診検査を行い、原因を明らかにします。少しでも気になるしこりや違和感がありましたら、遠慮なくご相談ください。

考えられる疾患

乳がん

乳がんの主な症状は、乳房のしこりです。このほかに見た目でわかる異常所見としては、乳房のくぼみ、ただれ、赤み・ほてり、乳頭からの分泌物、左右の乳房のサイズの変化などがあります。
日本人女性の場合、40代後半から60代半ばでの発症が比較的多いですが、20代や30代で罹患することもありますし、逆に70代や80代での発症も珍しくありません。乳がんは全ての年齢層の女性に起こりうる疾患です。

乳腺症

乳腺症とは、女性ホルモンバランスの変動によって乳房の中にある乳腺組織に様々な変化が起こり、しこりや痛み、張りなどの症状を引き起こす疾患の総称です。特に30代から50代の女性に多くみられる良性の疾患ですが、それ以上の年代の方に起こることもあります。

乳腺炎

乳腺炎とは、乳房の内部にある乳腺組織が炎症を起こした状態を指します。主に授乳期の女性に多くみられる疾患ですが、授乳をしていない女性にも発症することがあります。

乳腺線維腫

乳腺線維腺腫は、乳腺にできる良性の腫瘍のひとつで、特に20〜40代の若い女性に多くみられる病気です。乳腺内にしこりのような塊ができるのが特徴で、乳がんなどの悪性腫瘍とは異なり、転移したり命に関わることはありませんが、女性ホルモンの影響を受けて徐々に大きくなることがあります。

乳腺嚢胞

乳腺嚢胞とは、乳腺内に液体がたまってできる袋状の良性病変のことをいいます。乳腺組織の変化によって形成されるこの嚢胞は、女性の乳房のしこりの中でもよくみられるもので、特に30〜50代の女性に多く発生します。

乳房に現れる症状は、必ずしもすべてが乳がんというわけではありません。多くは良性の病変ですが、早期発見・早期治療が何よりも大切です。「気になるけれど、受診するのが怖い」「恥ずかしい」という方も多いですが、当院では丁寧な説明と患者様に寄り添った診療を心がけています。
乳房に違和感やしこりを感じた際は、どうぞお気軽にご相談ください。